FC2ブログ
雨上がりの上野公園。
私とナカタニちゃんは、美術館と動物園へ向かっていました。
けれど、目的地はあいにくの定休日。
ありゃん。残念。
まっいっか。
他に用事も無かったので、近くの公園のベンチに座ってみました。
美大生がスケッチしている風景を、あの娘とふたり、
何とは無しに眺めていました。

東京ってけっこう緑があるんやなぁ~。
鳩とか雀もいっぱいいるわ~。
のどかやなぁ~…。
なんかこのままお昼寝したくなるなぁ~。

…と思いきや、次第に雲行きがあやしくなり、
やがて大粒の雨がザーッ!!
慌てて美大生の人たちと一緒に、木陰の下へ避難しました。
あまりの土砂降りに誰もそこから動けません。
傘を持っていても役に立ちそうにもありませんでした。

突然の雨で、髪も服も少し濡れてしまいました。
ふと、彼女の方を見ると…
濡れた長い黒髪が身体に纏いつき、雨粒でキラキラ光っています。
…なんでこの娘は、こんなに綺麗なんやろ?
なんか愛しくて、抱きしめたいって思ってしまう私って…。
ああ、でもアカン。
ナカタニちゃんを汚すような事、思ってるなんて、
気づかれたら、絶対にアカン。

ちょっと胸が苦しいけど、こんなんすぐに収まるし。
うん、大丈夫。

「どうしたん?」
「……」
せっかく打ち解けてきたあの娘の表情は、また少し陰っていました。
「・・いつもこうなの。最近運が悪い」
悪い事はすべて自分のせいだ、と言うのです。

「何言ってんねんよ、そんなん全然関係無い!タマにはそ~ゆ~事も続くって!」
「…かな」
「大丈夫やし!な!」
「うん…」

(19)へとつづく。

それからは、何とか仕事の調整をつけ、新幹線のチケットを手配して…と、
慌ただしく準備を進めました。
彼女のお姉さんは、まだ大学を卒業していなかったので、
一人で大阪に残っていました。
私は、新幹線の時刻表を見せてもらう為に、お姉さんの家を訪ねました。
「あの娘ね、今すごく太ったんよ」
「何で!?」
「何か無茶してるみたい」
「う~ん…」
「ケイさんが来るの、楽しみにしてるみたい」
「ホンマに?それなら嬉しいけど…」

一人で、東京なんて、遠い土地へ行った事が無いけれど、何とかなるか…。

東京駅まで彼女が迎えに来てくれることになっていました。
私は新幹線の中、退屈しのぎに音楽を聴いたり、本を読んだりしていました。
名古屋を過ぎ、だんだん東京へと近づくにつれ、
手にした本の内容も頭に入らなくなってしまい、
自分の心臓がドックン、ドックン…と早鐘を打つ音が聴こえてくる気がしました。
もし、あの娘が駅に来てなかったらどうしよう!?
もし、来ていても、大阪へ帰れって言われたら…!?
~何だか悪いことばかり考えてしまいます。

「まもなく東京です。お客様の手荷物~…」
ああ、とうとう着いてしまった…。
新幹線が東京駅のホームへと入ります。
あっあの娘や!
車窓から、すぐ目につきました。
通りすがりのほんの一瞬だったけど、間違いありません。
新幹線から降りると、息急き切らし、彼女の元へと走って行きました。

「…元気?」
「…うん」
一目見た時、確かに太った!…と思いましたが、
以前は病的に痩せていたので、この位でちょうどいいのかも。
ただ、表情は、以前より暗くなっていました。
けれど気にせず、いつも通りに話しかけました。
「時間があるけど、家に行く前に、どこかへ行く?」
「うん」
彼女の提案で、上野公園へ向かうことになりました。


その途中、アメ横…という通りを抜けようとした時、一本道を間違えてしまい、
私と彼女は裏道に迷い込んでしまいました。
小雨が降りはじめ、霞がかかる閑散とした裏通りに、
水商売や風俗のお店、ホテルなどがポツポツと軒を並べています。
昼間から開けているお店もありました。
呼び込みの男が、彼女の顔を凝視しています。
思わず、二人で差していた傘で、彼女の顔を隠して、
急ぎ足でその男の前を通り過ぎました。
「隠すことないじゃん!」
後ろから男が叫んでいます。
「失礼なヤツやな~、人の顔をじーっと見て!」
「…あ、そうか、失礼なのか…」
何だか、他人事みたいにつぶやく彼女。
ちょっとしっかりして~、見られていたのは、キミ、ナカタニちゃんやねんで!

(18)へとつづく。
彼女…ナカタニちゃんが突然千葉へ行ってしまった日から、
数ヶ月が経ちました。

お正月。
とうとう年も変わってしまいました。
今頃何してるんやろ…?
一月と言えば、私と彼女の誕生月でもありました。
毎年変わったモノを渡していたけれど、
今年も渡そう!
~そう思いながら、多忙にかまけてしまい、
送ったのは、結局三月も末の事でした。

そして四月。
私は社会人になっていました。
慣れない事だらけで、ますます慌ただしい毎日が続き、
彼女のことも、心の片隅で気にかけていながら、
忘れ気味になっていました。
それでも手紙だけは、何とか書き続けていました。

そんなある日、仕事から帰宅すると、母親が電話で誰かと話をしていました。
「ただいま」
「あ、少しお待ち下さい。今、帰ってきました」
そう言うと、私に電話の子機を差し出します。
「…誰?」
「ナカタニさんのお母さん」
「…!」
一体何事なん!?
慌てて電話を受け取ります。
「もしもし、換わりました」
「あ、ケイさんですか?」
「はい、そうです。…どうしたんですか?」
「実は…困ってるんです」
彼女のお母さんは、そう言いました。

千葉へ帰って以来、彼女は勉強をする訳でもなく、働く訳でもなく、
何もせずに、日がな一日、部屋の中で閉じこもりきりの毎日を過ごしていたのです。
そんな生活を半年間も…!
そんな事になっていたとはちっとも知らず…。
何で?
あの娘は今どんな状態でいるんやろ?
ああ、今すぐ、千葉へ飛んで行きたい!

けれど、就職したばかりの私に、そんな事ができるはずもありません。
「あの、今月は無理だけど、来月のゴールデンウィークにはたぶん
何とかなりそうなんで、その時に遊びに行ってもいいですか?」
「ええ、お願いします。ミキも喜びます」
「…」

(17)へとつづく。

短大最後の文化祭が近づいてきました。
他の大学はどんな雰囲気か知りたくないかな…?
よし、うちの大学の文化祭に誘っちゃおう!
思い立ったが吉日、さっそくナカタニちゃんに連絡をとってみます。
あんまりケータイに出てくれないので、彼女の家に電話をかけてみました。
(ケータイ好きじゃないらしいです…)
彼女のお姉さんが出てきました。
「妹さん、いる?」
「…あの娘ねぇ、今、千葉へ帰ってるんよ」
「あ、そ~なん。で、いつ帰ってくるん?」

ナカタニ姉妹の父親の転勤先が、大阪から千葉に変わったため、
実家も××県から千葉に変わりました。
その事を知っていたので、特に不審にも思わず、軽い調子でたずねました。
「それがわからないのよ」
「え…どういう事??」
よくよく事情を聴いてみると、彼女は大学を休学していると言うのです。
「それっていつから!?」
「つい最近」
「!」
私はとても驚きました。
お姉さんから千葉の彼女の家の番号を聞き出し、すぐに電話をかけました。

「どうしたん、急に。…何かあったん?」
「うん…ただ、何となく…」
「何となくって、何となくで大学を休学するのか、あんたは!」
ハッキリ理由を言わず、のらりくらりとした態度を取る彼女に、
ついイライラしてしまい、思わず責めるような口調になっていました。

それからはひたすら千葉の彼女へ電話をかけました。
私は学歴至上主義者じゃないけれど、せっかく浪人してまで入った大学。
行かなきゃもったいないやん!
何とか復学してもらえないだろうかと、元々は筆不精だったんですけど、
ケータイ代も馬鹿にならないので、手紙を書くようになりました。
彼女から、返事は無かったけれど、以前彼女が××県へ戻っていた時に、
私にくれた手紙の返事を一度も書いた事が無かったので~(^o^;)ゞ
お互い様かな~…。

(16)へとつづく。

高校を卒業し、私は短大へ通うようになりました。
彼女…ナカタニちゃんは、それなりの大学へ受かっていながら、
何か思う所があったらしく、違う大学へ通うために浪人する事になりました。
一度親元の××県へ帰り、そこで予備校生活を送るんだそうです。
寂しくなるけど仕方ないか。
一年後にはまた会えるんだし。
彼女に手紙こそ書きませんでしたが、よく電話をかけていました。
内容は~どうでもいいような他愛もない話です。
たまに彼女から手紙が届きました。
彼女らしい、淡々とした手紙。
私にはちょっと物足りないほど、あっさりとした内容でしたが、
それでも、彼女からの便りは嬉しいものでした。

一年後。再び受験の季節がやって来ました。
それまでに一・二度会ってはいましたが~、
久しぶりに再会した彼女は少し大人っぽくなっていました。
私はちっとも変わらず。
「四年制受けるの」
「あ、そうなんか~…」
彼女は言葉通り、四年制の某・有名私立大学を受け、見事合格!

彼女は晴れて大学生に、私は短大二年生になりました。
お互い大学が違うと、会う機会も少なくなってきます。
初めての大学生活を彼女はそれなりに楽しんでいるようで、
新しい友人もできたらしく、少し寂しかったけど、
良かったァ~…私は少しホッとしていました。
以前は放っておくと、フッと何処かへ消えてしまいそうで…
「ミキがいきなり何処か行っても、ちっとも不思議じゃないやんね~」
そう、周りの友人たちに言わしめるほどでした。
最近は明るくなって、よく笑うようになったし、
もう私がいなくても、大丈夫やんね…。

普通の女の子になるにつれ、彼女の奇妙な魅力が徐々に消えてゆきました。
…ちょっとつまんないかな~…。
~なんて思ってしまう私って、勝手なヤツです!!
ゴメンネ、ナカタニちゃん。

(15)へとつづく。