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   雪がしんしんと舞い落ちる。
義仲「今頃は、木曽も冬支度かの…」
巴「殿、木曽へ帰りましょうぞ」
義仲「木曽へ…」
巴「春には福寿草が、秋には蕎麦の花が咲きまする。
 そうじゃ、天竜川の畔(ほとり)を共に早駆け
 致しましょうぞ!」
義仲「また駆けたいのう。そなたの小鞠と儂のはやてと。
 木曽の山々を最後に仰ぎ見たのは、何時であったか…」
巴「義仲殿…」
   
   蹄(ひづめ)の音。
巴「あれは…」
   今井四郎兼平(31)が義仲の愛馬はやてを
   引きつれ馬を駆けてくる。
兼平「殿ッ!」
   馬から飛び降り、平伏する兼平。
兼平「九郎判官義経殿、源行家(ゆきいえ)両軍が、
 宇治川を越えたと今しがた伝令が……あッお前は、
 巴ではないか!」
巴「兄上」
兼平「何故ついて来た!殿の足手纏いじゃ!」
巴「申し訳ありませぬ…!」
義仲「兼平、その話はもう良い」
兼平「はッしかし…」
義仲「良いのじゃ」
兼平「…はッ!」
巴「…」

義仲「前には平家、後ろは源氏、進むも退くも
 地獄よの」
巴「…」
義仲「じゃが、仮にも旭将軍と謳われたこの儂(わし)じゃ。
 九郎殿には恨みは無いが、鎌倉殿に一太刀なりとも
 浴びせてくれるわ!」
巴「ならば巴も御供仕りまする!」
義仲「ならぬ!」
巴「聞きませぬ!」
義仲「巴ッ!」
   睨み合う巴と義仲。
   阿修羅のごとき巴の形相。

義仲「ハハハ。まさに張魂(はりだましい)じゃの。
 言うても聞かぬわ。巴が男子であったら儂以上の
 大将になったであろうよ」
巴「…」
義仲「じゃが、極楽浄土への旅に女子連れとあっては、
 この義仲、末代までの恥よ!」
巴「…!」
義仲「それにの、義高はどうなる?あやつは巴を母とも
 姉とも慕とうておる。明日の身は誰にも判らぬ。
 万に一つ、生き長らえた折、儂の悲願を誰が義高に
 伝える?」
巴「…(悲壮な表情)」
義仲「その様な顔をするでない。これ、これが死にに行く者の
 顔に見えるか?」
   晴れ晴れとした、義仲の力強い笑顔。
巴「…見えませぬ…!」
義仲「儂は生きる!死ぬまで生きる!」
巴「…!」
   愛馬はやてに乗る義仲。
   義仲を見上げる巴に兼平、
兼平「巴、後の事はこの兄に任せい!義仲様は
 儂が命に代えてもお守りする!」
巴「兄上…!」

   山の端(は)からうっすら朝日が滲(にじ)む。
義仲「時が移る。兼平、参るぞ!」
兼平「はッ!(騎乗し、後に続く)」
   巴を後にする義仲と兼平。
   少し離れた小高い丘で振り返り、
義仲「巴!」
巴「!(ハッとする)」
義仲「そなたはまこと儂の朝日であった!」
巴「…!」
義仲「生き延びよ!木曽の山で再びあいまみえようぞ!」
巴「…義仲殿…!(涙で視界が滲む)」
   昇る朝日に消えゆく義仲の姿。
   いつまでも見ている巴。


 
 END。
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